天王寺書房

本と本の間で感じた言葉について

言葉と出会う瞬間

 随分と書いてませんでしたね。久々に書いてみます。

 ずっと読んでみたいと思っていた開高健。その代表作『ベトナム戦記』を読んでみました。

ベトナム戦記 (朝日文庫)

ベトナム戦記 (朝日文庫)

 

  全く予想と違ってました。読む前は、なんとなく、内容も文体も完全硬派なジャーナリズム記事のイメージを抱いていました。

 題材はベトナム戦争を扱っていますが、著者が実体験した、戦争・ジャングル・そこで生まれる言葉にならない感情、つまり「混沌」が書きなぐられている、という印象を受けました。

 恐らく、この書籍のモチーフは死に近接した時の「混沌」なのです。一方で、処刑などの社会的合理的な死に嫌悪を抱いています。

 人間は「混沌」の中での生に歓喜する。そこで「言葉」が生まれるのだと。

 

 次は、何気なく読んでみた、小林秀雄氏と江藤淳の対談集。

小林秀雄 江藤淳 全対話 (中公文庫)

小林秀雄 江藤淳 全対話 (中公文庫)

 

  小林秀雄氏って、おしゃれなダンディという、全く見た目だけのイメージしかなかったのですが、なんというか、人間の心の奥底にある傷=「暗闇」を見ようとしていた人なんですね。

 言葉が生まれる瞬間や喜びも、その「暗闇」に対峙した時に生まれるものであり、書き言葉に傾倒しすぎると、そういうことに出会えなくなると警告しています。

 

 言葉とは、出逢うものなのだ、とあらためて思う読書体験でした。